広告配信・運用を代行している我々のような代理店事業者も広告配信を依頼してくださる広告主のみなさまも、お金をかけて広告を出す以上、なるべく多くのユーザーに商材やサービスを認知させ、広告効果を高めたいと思っているはずです。きちんと運用し広告効果を高める必要があるのはもちろんですが、効果を下げている可能性がある問題の一つに「アドフラウド問題」があります。
この記事では、そんな「アドフラウド問題」について、押さえておきたい基本情報をまとめてみました。
アドフラウドとは
アドフラウド(Ad Fraud)は日本語にすると「広告詐欺」や「広告不正」と言われ、ボットによる成果の水増しや、ディスプレイ広告でインプレッションを不正に発生させ広告費をだまし取る行為を指します。
詐欺防止アドテク企業のピクサレート(Pixalate)が5月に発表したレポートによると、日本で取引されたデスクトップのプログラマティック広告のうち、約81%のインプレッションがアドフラウドの可能性があると記載されています。
(個人的には信じがたいですが、あくまでPixalateによる計測ではこのようになっています。)
かなり昔からアドフラウドが問題視されている欧米諸国と比べて、あまり問題視していていない広告主が多い日本は、アドフラウドの割合が非常に高くなっています。この問題意識の違いは、欧米諸国と日本の広告配信における考え方の違いによるものと言われています。
欧米諸国と日本の考え方の違い
MarkeZineの記事によると、欧米の広告配信はブランドイメージを落とさずに正しく伝えた上で認知を広げることを目的としているのに対して、日本の場合はかけた費用で何件コンバージョンを獲得できたかが重要視されており、この広告主側の「広告効果の見方」の違いが、欧米と日本のアドフラウドに対する問題意識の差を生んでいると記載されています。
日本では「予算を〇〇万円かけて、何件の成果を獲得できたのか。CPAはいくらだったのか」が重要視される傾向にあるので、良くも悪くもCPA目標さえ達成していれば問題なし、という風潮があります。しかしながら欧米では、広告配信の際にブランド価値を毀損しないことが大前提にあり、適切な広告配信先に広告を掲載したうえで、認知を広げていくことが当然の風潮としてあるようです。
例えばブランドのイメージを悪くする可能性のあるサイトに広告を何度も配信している場合、たとえCPAを達成していても、ブランドのイメージダウンにつながる可能性があります。CPA目標が達成されていれば短期的な目標はクリアできますが、長期的にはブランドイメージが悪くなり、広告配信によって売上が下がる可能性もあります。欧米では「ブランド価値を毀損しない広告配信」(=ブランドセーフティー)が大前提ですので、かなり前から、このアドフラウド問題について議論・対策がされています。
参照:その広告を見ているのは人ではなく、ロボットかもしれない
ブランドイメージを守る広告配信
今後、日本でも今以上に「ブランド価値を毀損しない広告配信」が重要視されるようになると思いますが、まず「ブランド価値を毀損する可能性のある広告配信」について考えたいと思います。
毀損する可能性があるサイトとして、以下のサイトカテゴリが挙げられます。
- フェイクニュース
- ヘイトスピーチ
- 一部のアダルト
- 違法ドラッグ
- テロ関連(暴力的なコンテンツが含まれるもの) など
プログラマティック広告の特性上、こういったサイトにも広告が表示される可能性があり、ブランドのイメージダウンに繋がることがあります。こういったリスクからブランドを守るためにも、獲得だけを重視する広告配信ではなく、適切な広告掲載枠に広告を配信できる仕組みを作ることが重要です。
また、公序良俗に反するコンテンツへの広告配信を回避する方法が検討されてるのに加えて、そもそもユーザーは広告を認識しているのか?また、広告を見ているのは適切にターゲティングされた”人”なのか?といった点も問題視されています。
Viewable Impressionが重要視される流れに
日本でも徐々にアドフラウドについて問題視されるようになってきていると上述しましたが、その流れの1つとして「Viewable Impression」を重要な広告配信の指標として利用するようになりました。
弊社でも過去にViewable Impressionについての記事が書かれていますが、この時にGoogleから発表された「ディスプレイ広告の実に 56% は、スクロールしなければ見えない位置や別のタブにあるため、ユーザーの目に触れずに終わるというデータがあります。」(※1)という内容には驚きでした。
こういった発表もあり、広告がきちんとユーザーに認識されたときに、課金されるようにしようという考え方が生まれ、インプレッション単価制を採用しているすべてのGoogleディスプレイ ネットワーク キャンペーンは「視認可能なインプレッション」に基づく課金方式(vCPM課金)に移行することになりました。GoogleやYahoo!などの媒体大手は、アドフラウドに対してきちんと対応策を検討しているようですね。
※1:広告が視認可能と見なされるのは、広告の面積の 50% 以上が、ディスプレイ広告では 1 秒以上、動画広告では 2 秒以上画面に表示された場合です。
参照:強化された Google ディスプレイ ネットワーク – ユーザー層分析、vCPM、動的リマーケティングに関するお知らせ
広告を見ているのは適切にターゲティングされた”人”なのか?
先ほど、Googleが発表した資料に「ディスプレイ広告の56%は視認されていない」という記述があったと書きました。残りの44%は視認されている広告であるとの事ですが、そもそも広告を見ているのが”人”ではない、”ボット(コンピューター)”の可能性もあります。
実際には、ボットを利用してインプレッション数を水増しし広告費を稼いだり、クリックの偽装や、不正にコンバージョンを獲得する方法など、ボットを人間の様に動かし配信実績を偽装する、悪意のある人たちがいるのも事実です。
関連記事:悪魔のアドフラウド14の手法まとめ
図:ブラウザ上のボットの行動パターン例
こういったボットによる配信実績の偽装などのアドフラウドは健全な広告配信と比べると、オープンマーケットでは割合が非常に高く、取引先が限定されるPMP(プライベートマーケットプレイス)では割合が低くなります。実際にイタリアではプログラマティック広告枠購入の90%がPMPで行われており、アドフラウドの割合は1%程だそうです。
参照:Digital Advertising Investment Will Surpass TV In Five More Countries
また、デモグラフィックによるターゲティングも、「50代や60代はSNSを使わない」「コスメ用品を見ているから女性」と決めつけるのはこの時代おいては難しく、媒体がデモグラフィックを元に適切にターゲティングするのも年々困難になってきているようです。Facebookのように、ユーザー自身がアカウント情報に性別、年齢などを登録すればある程度デモグラフィック情報に信ぴょう性を持たせることができますが、ユーザーのインターネット上の行動だけからは、デモグラフィック情報を特定するのは難しいようです。
アドベリフィケーションツールでの対策
こういった状況から、アドベリフィケーションツールを導入する企業が増えてきています。
アドベリフィケーションとは、DSPなどを使って配信した広告が、広告主のイメージ低下を招くようなサイトに配信されていないか、ユーザーが認識できる場所にしっかり掲載されているかなどを確認して配信をコントロールするためのツールのことです。
引用:アドベリフィケーションとは
アドベリフィケーションツールの役割としては、2つあります。
- ブランドイメージを守る役割(ブランドセーフティー)
公序良俗に反するサイトへの広告配信を防ぎ、ブランドイメージを守る役割があります。 - インビューを計測する役割
ユーザーが視認できる位置に広告が表示されたインプレッションを計測する役割があります。
アドベリフィケーションツールを使うことでアドフラウドが100%無くなるわけではないですが、少しでも健全な広告配信・効果検証ができるように、導入する企業が増えてきているようです。
代表的なアドベリフィケーションツールには、以下のものがあります。
- Black Swan
統合的なアドフラウド・アドベリフィケーション対策を可能にする広告ROI向上ツール - Black Heron
アドフラウド対策を中心に、オンライン広告において無効果なインプレッションやクリックを事前に防ぐことでパフォーマンスの向上を実現出来る、広告配信ネットワーク向けのプラグイン
まとめ
アドフラウド問題を個人の力で今すぐ解決するのは難しいですが、なるべく多くの関係者の方がこの問題を認識することが、問題解決に繋がると思っています。広告が適切な広告枠で、適切なユーザーに配信できるようになることは広告主・ユーザーの双方にとって良い事だと思いますので、この記事でアドフラウド問題について知るきっかけになると嬉しいです。
ちなみにこんな記事もありましたので、周りの方にも共有してもらえると更に嬉しいです。