つい先日iOS 11.0がリリースされ神アップデートと騒がれておりますが、iOSにデフォルトで搭載されているブラウザ『Safari』もバージョン11.0がリリースされたのをご存知でしょうか。
このSafari 11.0ですが、今回のリリースから新たに『ITP(Intelligent Tracking Prevention)』というトラッキング防止機能が追加され、サードパーティのCookieをもとにした広告配信や成果計測に影響を及ぼすと推測されています。
そこで今回は、このITPがWeb上の広告配信や成果計測に与える影響についてできる限り分かりやすくまとめてみましたので解説していきます。
そもそも、ITPとは
そもそもITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、冒頭で述べた通りサードパーティのCookieを対象に作用するSafari 11.0上のトラッキング防止機能です。
2017年6月にAppleが開催した開発者向けイベントで初めて発表されました。
複数のWebサイトをまたがってユーザーを追いかける広告(リターゲティング広告など)に対して、Cookieの有効期限を極端に短くすることで広告の追跡を阻止するという機能を持ち、これによってユーザーのプライバシーを保護するものとされています。
ITPの具体的なメカニズムはWebkitの記事に記載されていますが、要はSafari 11.0経由でサイトを訪問したユーザーに対して、24時間以降はユーザーの追跡を目的としたCookie情報が参照できなくなる為、訪問ユーザーの外部サイトでの行動を追跡できなくなるということになります。
一方で、ログイン情報などのCookie情報については30日間はそのまま残る為、ユーザー側の使い勝手は変わらず、プライバシーのみ保護されるということになります。
ITPが広告に与える影響について
2017年9月からリリースされたSafari 11.0からデフォルトで搭載されているということ、デスクトップ版SafariだけでなくiOS版Safariにも標準搭載されるということで、Cookie情報をもとにした広告配信や成果計測に様々な影響がありそうです。
現時点で想定される主な影響としては、
- リターゲティング、リマーケティング広告など、Cookieをもとにした追跡機能を持った広告メニューの配信が制限されること
- サイトを訪問してから24時間以降のコンバージョンを測定できないこと(コンバージョントラッキングもCookieを参照している為)
の2点が考えられそうです。
上記2点はあくまでもSafari 11.0経由でアクセスしたユーザーに限っての話になります。
つまり、ITPがWeb広告に与える影響について考える上で「そもそも自社サイトにSafari経由で訪れるユーザーがどれぐらいいるのか」というのも大きなポイントになると考えています。
そこで、まずは日本国内で利用されているWebブラウザの割合を見ていきましょう。
デスクトップでのブラウザ別利用割合
参照元:Syncer
開発者向け情報サイトSyncerの統計情報によると、デスクトップでのブラウザの利用割合はChromeが半数以上を占めており、Safariユーザーは全体の5%と少ないことが分かります。
つまり、ITPによるデスクトップへの影響は現時点ではそこまで大きくないと判断しても良さそうです。
では、モバイルでの割合はどうでしょうか。
モバイルでのブラウザ別利用割合
参照元:Syncer
モバイルで見ると、Safariの利用率が約6割強と過半数を超えているのが分かります。
国内では群を抜いてiPhoneユーザーが大半を占めていることもあり、この辺りは必然と言えるかもしれません。
ただ、今回ITPが搭載されるのはSafari 11.0からということもあるので、これだけではまだITPがモバイルへ与える影響を測ることができません。
そこで、モバイル版Safariのバージョン別の利用割合についても見てみましょう。
モバイルでのバージョン別Safari利用割合
参照元:Syncer
Safari 11.0がリリースされてまだ間もない為、バージョン10.*が大半を占めています。
したがって、少なくとも現時点ではモバイルにおいてもITPが与える影響は少ないと言えると思います。
しかし、Safari 10.0リリースされたのが2016年9月ということを考えると、ここから1年で一気にSafari 11.0ユーザーが増えていくことが想定されるため、早めの対策を打つことが必要になるでしょう。
ちなみに
ここまではあくまでも日本国内での全体的な統計で見てみましたが、「実際自社サイトにはどれぐらいの割合でSafariユーザーからの流入があるのか」というのも大きなポイントだと思います。
ここについては、Google Analyticsで「ユーザー」タブの「テクノロジー」から、「ブラウザとOS」で確認することができるので気になる方は参照してみるといいと思います。
ITPへの対策について
上述した通り、ここから一気にSafari 11.0ユーザーが増えることが予想される為、早めに対策を打つことが重要です。
実際、このITP導入を受け海外では主要な広告関連団体が「インターネットの経済モデルを妨害する」ものとしてApple社に対し抗議を行っています。
この抗議に対してApple社は、「ITPは広告をブロックするものでもなく、ユーザーのプライバシーを保護する為のより先進的な方法である」として、今後もITPを取り下げることはしないとしています。
こういった抗議がある中で、Google AdwordsはITPの導入を受けコンバージョントラッキングの仕組みを変更しました。
Google Adwordsのコンバージョントラッキングの変更点
コンバージョントラッキングの主な変更点としては下記の通りです。
- Google AnalyticsのCookie上に広告クリックの情報が保存されるように
AnalyticsのCookie上にAdwordsの広告クリックの情報が保存される為、その情報を使ってコンバージョンをトラッキングすることができるようになりました。
但し、「Google AdwordsとGoogle Analyticsが連携されていること」と「自動タグ設定がONになっていること」という条件があるので、これら2つの条件をクリアすればITPが機能している状況下でも24時間以降のコンバージョンを測定することができます。
- レポートのコンバージョン列に「モデル化されたコンバージョン」が登場
AdwordsとAnalyticsが連携されていない場合、又は連携されていても自動タグ設定がONになっていない場合は、サイト流入後24時間以降に発生したコンバージョンは計測することができません。
したがって24時間以降に発生したであろうコンバージョンについては、現在や過去のデータに基づいて、あくまでも推定値として「モデル化されたコンバージョン」という形でレポートのコンバージョン列に反映されることになります。
モデル化されたコンバージョンが反映されるのは、Google検索広告とショッピング広告の同一デバイスによるコンバージョンのみとのことですので、ディスプレイ広告やクロスデバイスコンバージョンでは利用することができません。
参照元:Google Adwords ヘルプ「ウェブサイトコンバージョンをトラッキングする仕組み」
まとめ
今回のITP導入により、Cookie情報をもとにした広告配信や成果計測に影響が出ることは間違いなさそうです。
こうした状況からGoogle Adwordsはすでに対応策を発表していますが、ITPはGoogle AdwordsだけではなくYahoo!プロモーション広告やその他の運用型広告にも影響を及ぼすものと考えています。
ITPの導入を受け、今後しばらくは関係各所の動きに注目しながら、特にリマケ・リタゲなどは慎重に管理していく必要があるかと思います。
とはいえ、代理店として媒体側から与えられたものの中でいかにお客様に利益をもたらすかという根本的な部分はこれからも変わらないので、たとえ機能が制限されたとしても、残っているもの・こらから増えていくであろう新機能の中で最適な提案をしていくということが大切ですね。
参照元:Apple Special Event「WWDC17」(2017年6月5日)
Webkit「Intelligent Tracking Prevention」(2017年6月5日)
Syncer 「ブラウザのシェアの統計情報」(2017年9月21日)
Google Adwords ヘルプ「ウェブサイトコンバージョンをトラッキングする仕組み」(2017年9月21日)